Photo by YM-DP / SKMZ

2025年12月13日(土)、シクロクロス全日本選手権が開催され、シングルスピード部門で優勝することができました。レースの開催決定から、準備、当日の模様を文字で残しておきたいと思います。

Photo by KeiTsuji

シクロクロスのシングルスピード部門は2017年の野辺山で初開催されて、マキノ、飯山、内子、土浦、WNP、3年空いて今回の大阪府貝塚市二色の浜公園で復活し、7度目の開催となりました。

自転車競技において、各国のナショナル選手権はとりわけプライオリティが高く、いわゆる「タイトル」を手にできる唯一の機会です。例えそれがニッチな種目でも、そこで勝てば正真正銘の日本一と名乗れるわけです。

Photo by Satoshi Oda

少なくとも一度頂点に立つまでは誰しもがより良い結果を求めて挑みますし、その分プレッシャーは計り知れません。自分は土浦で一度優勝を経験していて、その後挑んだWNPではかなり落ち着いた気持ちでレースを走れました。ただ今回はそれ以上に、「地元開催」の重圧を感じることとなります。

2025年度の大会主管は「関西シクロクロス」、自分が毎週参加しているローカルレースです。京都車連が運営していて、大会オーガナイザーのマリオ氏も同世代の仲間です。1年前の開催告知で自分のレース写真=シングルスピードとわかる写真をSNSで使ってくれていたので、シングルスピード部門を復活させるぞという暗示と理解しました。

https://x.com/kansaicross/status/1868192543005139378?s=20

伝統や文化・カルチャーを支えているのは多勢の意見ではなく、それに応じようとする個人の努力によるものがほとんどです。その個人が続けることを断念すると、あっけなく文化そのものがなくなってしまうものです。2年間シングルスピード部門は開催されず、それを強い意思で復活させてくれたことに応えたい気持ちが高まりました。

<準備>

トレーニングをすることは日課なので特別な準備に含まれるかわかりませんが、強い圧に打ち勝つ方法は色々とあります。

ライバルは概ね数名。三宗広歩選手は土浦全日本を最後まで争った強者で、直近のレースリザルトだけを見れば彼の方が実力は上です。今井大悟選手とも過去数回戦っていてかなり実力は拮抗していると思っていました。(実際には翌日の全日本エリートでフルラップしていて、全くの読み違いでした。彼の方が圧倒的に走力があったと思います)

凡庸な走りでは、実力で上回るライバルに勝てません。その点は普段のローカルレースで散々鍛えられているので、攻めた走りにもバリエーションすらあります。「砂地獄」と予される二色の浜に向けて、自分が重点としたのは以下の3点です。

1. レース序盤のハイペース
2. ミスを極限までおさえる
3. ギア比

1.の、レース序盤でペースを上げることはシクロクロスでは当然の話ですが、自分なりの勝算があります。序盤は身体も視界も速度に慣れていない上、他選手が想定する以上の速度に上げられればミスを誘発できます。自分に限っては速度域が高い分にはテクニックに自信があるのと、試走でもそのためのラインを複数用意しておけば良いので、とにかく前に出て攻めることにしました。

2.は砂コースならでは、です。轍のトレースや降車のタイミングをミスすると、それだけで3秒・5秒なんてあっという間に空いてしまうのが砂の怖いところです。序盤のペーシングはともかくライン選択でいちいち博打に出ない、舗装路で踏み倒して1秒詰めるよりミスを減らすことが肝要です。前日試走は2時間丸々ライン探しに充てたのと、レース後半は体勢が崩れるので、自分の意識づけという意味で普段よりも数ミリだけハンドルを上げておきました。いつもと少しだけ違うポジションが、常に自分へ警笛を鳴らしてくれました。

Photo by Y.Kato

3. はシングルスピードの醍醐味です。ここ数年で気がついたのは、重くて低いケイデンスよりも直線の高いケイデンスの方が身体への負担があり、オールアウト気味になりやすいという点です。今回は砂地なので走りやすい軽いギア比が好まれますが、レースで勝負したいならあえて重いギア比で直線を走り抜ける方がいいと判断しました。40×19の2.1あたりが多そうでしたが、僕は桂川や御坊でも使った40×17の2.35を選びました。当然試走の際に複数のバリエーションを試して判断しました。

<レース当日>

Photo by YM-DP / SKMZ

運命の日、いつも通り自宅のベッドで起きて、いつも通りの食事、いつも通りの時間に自宅を出発しました。レース会場でのルーティンも全て予め決めた通りに行い、とにかく余計なことに頭を使わないように努めました。頭の中で自分の走りをイメージしながら、スタートを待ちます。

召集は50名弱、よくぞこれだけ集まったもんです。ちなみに召集順はエントリー順かも?という噂もあったので、カテゴリーとランキング順に並べるのはどうかと主催側に提案しました。下手に力差がある選手がグリッドで前後すると落車の元です。カテゴリーを跨いでの並べ直しって実はすごく手間がかかるらしいのですが、応じてくださいました。ありがとうございます。(ちなみに僕はダッシュでエントリーしたのでどっちにしてもゼッケン1番だったようです)

Photo by ウインナー夫
みんなギアなくなって早々にエアロポジションでくだってる。実際には45km/hくらいしかスピード出てないのに・・・。Photo by ウインナー夫

定刻通りスタート。クリートキャッチもそつなくこなし、変速音のない静かな直線を楽しみます。周りより重いギアを踏んでホールショットを獲ったつもりが、Panasonicケーナカ選手に先を越されます。もしかして自分の前に出て風除けになろうとしてる??そんな気がしたのでお礼を言って1コーナー手前で交わしました。

林間〜砂浜区間を全力で抜けて、いっときは数秒差が空いていたようです。1周目終了時でやはり前述の2名が後ろにピッタリついていました。さすが、、、しかし緩めることなくプッシュを続けます。砂はミスをする前に降りる、前にさえ出ていればライバルも降車せざるを得ないので、自分のペースで淡々とレースを進めます。

Photo by YM-DP / SKMZ

直線は誰かを風除けに使いたいところですが、自らプッシュしてライバルをオールアウトさせるくらいのつもりで踏みました。自分の方がギアが重い、だから向こうの方がケイデンスが高くて絶対ツライ。そう言い聞かせてレースを進めます。3周目に入った時点で今井選手が数秒遅れ、三宗選手と2人パックになりました。

Photo by Satoshi Oda

3周目林間で今井選手の様子がわからなかったので、三宗選手に状況を尋ねたところ返答あり。まだ少し余裕がありそうな気がしたので、逆にここからはペース走に切り替えてとにかくミスを避ける走りに徹します。と、林間を抜ける最後の砂地で降車したところ、後ろで何やら「カキン」という音がしました。落車ではなさそうなものの、少しでも差を空けるチャンスなので振り返らずにその後の直線は全開で踏みます。しかし状況が何せわからない。

この時点で、何か変な音が後方から聞こえていた Photo by Y.Kato
で、こうなった模様 Photo by Y.Kato

コーステープ外の仲間に「何秒!?何秒!?」と尋ねるもなぜか答えてもらえず、逆に焦りながら砂浜区間に入ります。どうやら三宗選手のバイクにトラブルがあったようで、タイムを数えられないほど車間が空いていたそう。「2位3位が入れ替わって19秒差!」FD氏の声掛けで状況が理解できたので、改めてペース走を開始します。

恥ずかしい話、この日を迎えるまでずっと不安が抑えられず、挙句には胃の調子も悪い日が続いていました。うっかりネガティブモードに入ってしまい、慌てて「だいじょうぶだいじょうぶ。いままでやってきたし」と自分を励ます、これを日に何度も何度も繰り返していました。

Photo by ウインナー夫

いたたまれなくなり妻に相談したところ、いままでの自分の走りを見てきた上で「砂浜のランは顔を上げて自転車に体重をかけずに走ること、そして最後まで絶対に諦めないこと」この2点をアドバイスしてくれました。沢山伝えても伝わらないと感じたのか、本当に大事なところをキッチリ指摘してくれて気合いが入りました。砂は正面を向いて走る、どんな状況でも絶対最後まで諦めない。3周目中盤以降はずっとこれを唱えながら走りました。

Photo by YM-DP / SKMZ

 

Photo by YM-DP / SKMZ
Photo by ウインナー夫

序盤にハイペースを刻んでいたつもりが、後続を離した3周〜4周目もラップタイムは変わらず、ミスも一切なく、ただただ声援を噛み締めながら走り続けました。流石に後続と1分空いた最終周回中盤で勝利をある程度確信、絶対機材を壊さないように丁寧に走り、ラップさせてもらう選手と会話も楽しみつつコースを走り抜けました。

Photo by YM-DP / SKMZ

歓声の止まない砂浜を通り抜け、最後の階段を登ったあと少し周りが静かになります。「これでフィニッシュか」そう思うと、ボロボロと涙が出てきました。つらいトレーニングに耐えてきたというより、この場所で勝ちたい、勝つことで関西シクロクロスに関わるみなさんに恩返しをしたい、この想いとプレッシャーから解放された瞬間でした。

Photo by Satoshi Oda
Photo by Y.Kato
Photo by Y.Kato

がらぱさんのアナウンスで祝福され、ここ一番のガッツポーズを披露しました。込み上げてくるものがあり、雄叫びをあげ、前を見ると自分と同じ声量で「よーやったー!!!」と喜んでくれているオーガナイザーのマリオ氏。彼がこの大会にかける想いも会うたびに聞いてきたし、一緒になって喜んでくれて感無量でした。ハグしたらマリオは泣いていて、また更に僕も泣いて、大の大人が何をやってんだよという感じでした。

「マリオのおかげやで。」こう交わしてようやく熱い抱擁から解放されました。

<レースを終えて>

Photo by YM-DP / SKMZ

自分にとって最高の結果で終えることができた全日本選手権。勝てた要因を振り返ると、毎週顔馴染みの強い仲間に当たり稽古させてもらっていたことが大きかったと感じています。今回のレースに似たシチュエーションも何度か身に覚えがありましたし、失敗したことも成功したことも、今回の勝利に貢献してくれたと感じています。普段一緒に走ってくれている関西のライバルたちに大きな感謝を。

そして、このレースを作ってくれた「関西シクロクロス」のみなさんにも最大の感謝を伝えたいです。よく地方へ行くと「関西はすごいねぇ」という声を聞きます。そりゃあ30周年の実績は伊達じゃないと思いますし、今日明日それ以上の運営を実行することは難しいのかもしれません。ただ、関西は関西で積み重ねの末の今日であり、自転車界では馴染みの「マージナルゲイン」が成し得た現在だと思います。

大会運営に関わることもマージナルゲインかも知れませんが、実は会場のゴミをひとつ拾うことも、大会の良かったことをSNSにポストすることも、または運営のスタッフへ笑顔で挨拶することも、それに含まれると思っています。

主催のマリオ、コースディレクターのカッキン、MCのがらぱさん、音響のSLmのみなさま、審判員のみなさま、受付のみなさま、設営のみなさま、立哨のみなさま、駐車場の誘導のみなさま、関わってくださったみなさまに対して厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

次は関西シクロクロスでの1勝をマジで目指し、精進していきます。

最後に、自分の活動を支えてくださるサプライヤーとサポーターのみなさんに感謝を。

Photo by YM-DP / SKMZ

Wilde Bikes:https://www.instagram.com/wilde.bikes/
WAVEONE:https://www.instagram.com/waveone.jp/
Panaracer:https://www.instagram.com/panaracer_japan/
Rideworks Kobe:https://www.instagram.com/rideworks_kobe/


大会名: 第31回 全日本自転車競技選手権大会 シクロクロス シングルスピード部門 大阪・二色の浜
開催日: 2025年12月13日
開催場所:大阪府貝塚市二色の浜公園
気温:   8℃
リザルト:1位
路面状況:ドライ、サンド
使用フレーム:Wilde Bikes “FullWolf”
ギア比: 40 x 17 = 2.35
ウェア: WAVEONE “長袖スピードデュアルスーツ”
タイヤ: A Dugast Typhoon
ホイール: Icon T3.5 Disc – DT240
(*試合1週間前にOlandaBaseの梶鉄輝選手がヨーロッパから持ち帰ってくれました。SHIMANOのデュラエースと遜色ないほど硬くて軽量です。ヨーロッパではDeschacht-Hens CX Teamが使っていて、つまりヨーロッパチャンプも使用しています。気になる方は鉄輝にコンタクトを取ってみてください。https://www.instagram.com/tetsukikaji/

2025全日本自転車競技選手権大会 シクロクロス / シングルスピード部門優勝

kossy


自転車歴20年の社会人アスリート。BMXパーク競技を経て泥の中をレースするシクロクロスへ参戦、ボーダーレスな自転車競技活動を続けている。Wilde Bikes唯一のサポートライダーとして国内トップカテゴリーを走る一方、本職では自動車整備業に従事。乗り物のほかコーヒー、銭湯、カメラにアウトドアなど、趣味は常に多彩でオーバーフロー気味。 Instagram / Twitter / Facebook


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